東京高等裁判所 平成11年(行コ)265号 判決 2000年9月27日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文一と同旨
第二事案の概要
本件の事案の概要は、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 当裁判所も、被控訴人の本件請求は原判決が認容した限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の「第三 当裁判所の判断」及び「第四 結論」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
1 原判決四八頁五行目の次に行を改めて次のとおり加える
「 控訴人は、当審においても、本件条例は千葉県がその条例制定権に基づいて自主的かつ独自に制定したものであり、いかなる情報を公開し、いかなる情報を非公開とするか、公開と非公開の範囲及び程度、公開と非公開のメルクマールをどこに置き、非公開事由をどのように盛り込むかは、条例制定段階の立法政策によって決定されたものである、そして、本件条例は、一一条二号該当性に関しては、プライバシーの保護に万全を期するという目的達成のために、個人の識別性及び識別可能性を唯一の判断基準とする立法形式を採用したのであり、①非公開とすることが実質的に公文書の公開請求の途を閉ざすことになるか否か、②当該情報がプライバシーに係るものであるか否か、③当該情報が公開に親しまないか否か、④公務員の公務に関する情報につき、公開してもプライバシーの侵害の生じないことが明らかであると判断し得るか否か等の判断基準は一切採用していないから、右のような判断基準を用いることは立法論というべきであり、解釈論としては許されない、したがって、本件非公開情報は「個人に関する情報」として公開されるべきではないと主張する。しかし、仮に本件条例制定における立法者意思がそのようなものであったとしても、一たび成立した本件条例の規定の解釈・適用に当たっては、立法者意思は、立法者意思として尊重すべきことは当然のことであるが、これも右解釈・適用に当たっての一つの参考資料にすぎず、これに拘束されることなく、本件条例の立法目的及び文言に則して合理的に解釈して適用すべきものである。この観点から本件をみると、本件条例一一条二号については前示のとおり解釈するのが合理的かつ相当であると認められ、控訴人の主張する解釈が右解釈よりも合理的であるということはできないから、これを採用することはできない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、一一条二号の解釈に関して控訴人が原判決の不当を主張するところは、理由がなく、採用することができない。」
2 原判決五五頁五行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 控訴人は、当審において、重ねて、右の情報が公開されると、公開されている見積書や請求書に記載されている債権者ごとの個々の飲み物、料理等の価格が明らかとなり、そうなれば、土木部管理課という特定の顧客に対するサービス内容が、債権者の意思とは関わりなく、かつ、同業者の同様の情報を得ることなく、また、管理課以外の顧客に対しても、一方的に、かつ、不特定の第三者に公開されることになるのであり、債権者たる事業者の「競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え」ることは明らかであると主張する。しかし、右のような情報は、右に判示したとおり、極めて個別的・限定的な営業実態に関する情報にすぎないのであって、これが土木部管理課という特別の顧客以外の第三者に公開されたからといって債権者たる当該飲食店の競争上又は事業運営上の地位に不利益を及ぼす具体的な危険があるものといえないことは、右に説示したとおりである。」
3 原判決六二頁三行目の「中には」の次に「、それ自体が土木部管理課所管の事務事業に当たり、かつ」を、同五行目から同六行目にかけての「会合」の次に「。
それ以外の、例えば、土木部管理課内部や国等の関係行政庁又は関係団体との単純な事務打合せのための会合などは、これを公開しても次に述べるような不都合な事態が生ずることは考え難いから、これに当たらないことが明らかである。」をそれぞれ加える。
4 原判決六六頁六行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 控訴人は、本件条例一一条八号所定の支障を具体的に主張、立証しなければならないとすると、本件非公開部分を公開して立証せざるを得ず、非公開処分取消請求訴訟を追行する意味がなくなる、控訴人は非公開部分を明確にして一一条八号所定の支障を具体的に主張、立証することができないという制約の中で訴訟を追行しているのであり、控訴人が行うことができる具体的な立証は、従前行った証人尋問か又はできるだけ裁判所の推認が働くような例示による説明を行う方法によるしかない、一一条八号の要件認定は実施機関が行うこととされているから、その要件認定の客観性は合理性の範囲内におけるものであり、その立証は合理性の範囲内で推認が働く限りで行うものであると主張し、さらに、書証を特定して、それらが前記③④⑧⑩のいずれの事務事業に関するものであるか及びそれが公開されるとどのような支障が生じるかを一般的・概括的に説明して、一一条八号所定の支障についての具体的な主張、立証であるとしている。しかし、まず、本件非公開処分の取消訴訟において、右処分の適法性を主張、立証する責任が処分庁である控訴人にあることは、一般の行致処分の取消訴訟の場合と同様であり(本件において、これを別異に解する必要性は認められない。)、したがって、控訴人において本件条例一一条八号所定の非公開事由の存在を具体的に主張、立証しない限り(右主張立証責任が控訴人にあると解すべきことは、原判決説示のとおりである。なお、最高裁平成六年二月八日第三小法廷判決・民集四八巻二号二五五頁参照)は、その点において本件非公開処分の適法性が主張、立証されていないとされるのはやむを得ないものといわざるを得ない。そして、控訴人が前記③④⑧⑩の事務事業に関して本件条例一一条八号所定の支障があるとして説明するところからは、当該懇談会が単に土木部管理課内部や国等の関係行政庁又は関係団体との事務打合せのための会合であることは窺えるものの、それがそれぞれの事務事業の執行のために必要な事項についての関係者との内密な協議を目的として行われたものであることは全く窺うことができないから、右の説明から、本件条例一一条八号所定の支障の存在について具体的な主張、立証があったものとは到底認められないというほかはない。」
二 よって、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 櫻井登美雄 裁判官 加藤謙一)